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高松高等裁判所 昭和40年(う)42号 判決 1965年8月05日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年二月に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に編綴してある、弁護人橋田政雄作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点について。

論旨は、本件賭博開張図利事件につき、原判決には法令適用の誤りがあるというけれども、原判決はその罪となるべき事実の第一として「被告人(中略)は(中略)被告人方において賭博場を開張し、(中略)賭金の一割を手数料名義の下に徴収して利を図り、」と摘示しており、そのうち「賭博場を開張し、」までの部分は、「被告人は賭博の主宰者としてその賭博の場所として自宅を提供した」ことを簡略に表示したものと解すべきことと、所論の内容とを考え合わせると、論旨は、賭博開張図利には、賭博場開設、賭者招集及び利得の意図が要件であるところ、被告人は自宅に賭博場を開設したこともなく、利得を図ったこともないから、原判決にはこの点において事実の誤認があり、また、賭者の招集を欠く行為につき刑法第一八六条第二項を適用したのは同条の解釈適用を誤ったものであって、被告人の行為は単純賭博罪の従犯を構成するにすぎない、というものと解せられる。

ところで、刑法第一八六条第二項の「賭博場ヲ開張シ」というのは、賭博の主宰者として、その支配の下に賭博を成立させるべき場所を設定することであって、必ずしも、賭者を特定の場所に集合させることを要しないと解すべきであるところ、原判決挙示の各証拠によれば、被告人は、本件のいわゆる野球賭博に関し、自宅に、野球試合の日程表や過去の実績の記録を備えつけ、電話や事務員を置き、賭者に一定の賭金やいわゆるハンディーを通報するとともに賭博の申込みを受け付けてこれを記録し、試合の双方ティームに対する賭け口の数が合致するよう調整して賭博を成立させ、かねて定めた一定の基準に従って敗者から賭金を集金し、勝者にこれを配分していたこと、すなわち、被告人が、本件野球賭博の主宰者となって、その支配下に賭博を成立させ、成立させる場所として自宅を提供していたことを充分認めることができる。

また、被告人は、一回の賭博成立ごとに勝者から配分金の一割に相当する金額を手数料という名目で徴収し、その手数料の取得を目的として本件賭博を主宰していたこと、すなわち、前認定のように開張して、利を図ったことを充分認めることができる。もっとも、前掲各証拠によれば、被告人は賭け口の数を合致させる必要上自ら賭者となることがあり、その結果手数料を徴収しても損失を被ったこともあったことが認められるけれども、刑法第一八六条の「利ヲ図ル」とは開張によって一定の利得を予定することであって、利得が常に確実であることまで予定することは必要でないと解すべきである。

原審における各証拠及び当審における事実取り調べの結果を検討しても前各認定を動かすべきものはないから、原判決には所論のような事実の誤認はない。また、前説示から明らかなように、賭者を一定の場所に招集することは賭博場開張の要件ではないと解すべきであるから、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りもない。従って、論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、要するに、原判決の量刑は重すぎて不当であり、刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。

ところで、被告人は、いわゆるやくざの親分であって、興行を業とするとともに賭博の常習者であり、本件賭博の規模も相当大きいけれども、過去において三回罰金刑に処せられた前科はあるが、昭和二九年七月以降は何らの前科もなく、最近はやくざの第一線から身を引き、積極的に暴力団体を援助した形跡もなく、現に、正業に専従することを決意し、砂川熊一と共同して砂利採取業を開始しているところ、すでに五八歳に達して胸部疾患の重症者であることなど、記録に現われている諸般の情状を考量すると、刑の執行を猶予するのが相当であり、原判決の量刑は刑の執行を猶予しなかった点において重すぎて不当であると認めるので、論旨は理由がある。

そこで、刑訴法第三九七条、第三八一条によって原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によって更に判決する。

原判決の理由中被告人に関する部分をすべて引用し、刑法第二五条第一項を適用する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 東民夫 梨岡輝彦)

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